• 「シゲコラム」  

      齋藤滋子院長が提供するおはなし

     

     

    月刊サイトウ歯科で10数年に連載されていたコラムです。

    サイトウ歯科・磐田 院長 齋藤滋子の子供時代の話から歯の話まで独自の視点で書いています。

    どうぞ、お楽しみ下さい。

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    「むし歯のはなし 〜前編〜」

     私達、歯科医療関係者は、虫歯のことを、「う蝕」とか「カリエス」と呼ぶことが多く、歯科検診では、一般に「C」という記号で表します。虫歯は歯の表面が脱灰することから始まるのですが、詳しく説明する前に、まず、歯の構造を確認してみることにしましょう。

     
     歯はとても硬い組織ではありますが、歯科大学で歯の構造を学んだ時、私達は、砥石を使ってゴリゴリ歯をすり減らし、薄い切片にし、断面を顕微鏡で観察しました。歯の構造は、生えている奥歯を、半分にしたところを想定して、説明することにします。


     エナメル質は、歯の外側で一番硬い部分です。90%以上が無機質で、顕微鏡で見るとエナメル小柱という直径数ミクロンの細い繊維の束になっています。象牙質は30%程の有機質を含み、エナメル質の次に硬い組織です。これも象牙細管という細い管でできていて、管の中には歯髄側から象牙芽細胞の突起が伸びだしています。セメント質は骨と似た成分です。歯槽骨との間を歯根膜という繊維で結びつけています。歯髄は、いわゆる「神経」といわれる部分です。細い血管や神経線維が根尖孔を通って顎の骨の中を通る血管や神経とつながっています。

     

     虫歯はその進行度により、C1~C4に分類されますが、臨床的にはC1の様に見えても、実際に歯を削ってみると、それ以上に進行している・・・ということもあるので、数字にこだわることにはあまり意味がないようにも思われます。また、検診では、視診で虫歯かどうか疑わしい場合、CO(要観察歯-questionable caries under observaition) としてチェックすることもあります。では、どのように虫歯が進んでいくかをわかっていただくために、状態像を使って説明しましょう。

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    C0と診断される口腔内写真

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    シーオー

    CO

    物を食べた後、歯の表面では、実は、脱灰と再石灰化という、溶けたり修復されたりを分子レベルで繰り返しており、(後日詳しく説明する予定です)脱灰に傾くと歯の表面が溶け始めます。統計上は健全歯とみなしますが、お口の中の条件が悪ければすんなり虫歯に移行するし、条件が良ければ何年もそのまま、あるいは再石灰化してくる可能性もあります。奥歯の溝等で、エナメル質の実質欠損は認められないが黒く(褐色に)なっている場合や、平滑面で、やはり、実質欠損はないが、脱灰を疑わしめる白濁や褐色斑等がある場合、隣接面で精密検査を要するものなどがあります。

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    シーワン

    C1

    エナメル質あるいは露出した歯根のセメント質の、初期の虫歯です。探針で触ると実質欠損が分かり、見えにくい歯と歯の間などの虫歯はレントゲン写真で黒く透けて見えます。自覚症状はほとんどありません。治療は一般に、虫歯の部分を削って、人工的な材料を詰めますが、すぐに処置をせず、経過観察することもあります。 

  • 2

    「むし歯のはなし 〜後編〜」

    今回は、前回の話の続きで、虫歯がさらに進行した場合の話です。

     

     エナメル質の脱灰がさらに深く進んで行くと象牙質に到達しますが、その境目からは、それまでとは違った展開が始まって行きます。象牙質は、象牙細管という有機質の多い、細い管状の組織ですので、そこに到達した虫歯は象牙細管を通って歯髄の方へ進んで行きます。“冷たいものや甘いものがしみる”ことや“痛い”こともありますし、何も気付かないで進行することもあります。

    感染が歯髄に到達するとC3のレベルになりますが、実際にはその境界は曖昧です。ただし、歯髄が炎症を起こすと、ズキンズキンととてもつらい痛みに襲われることになります。

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    一般的にはエナメル質表面の脱灰が進むと、エナメル質結晶の崩壊が始まり、“う窩”と呼ばれる虫歯の穴があくのですが、目で見て穴になっていなくても、象牙質部分でドーンと大きく軟化が広がっていて、削ってみると、驚くほど大きな穴になってしまうこともあります。(写真1)の虫歯の部分を削ると(写真2)のような大きな穴になりました。

     軟化した象牙質は茶色く柔らかで、手用の切削器具でボリッボリッと簡単に削れます(写真3)。

     

     そしてさらに恐ろしいことには、虫歯の治療で詰め物等がある歯でも、詰め物の下や隙間から虫歯が進行する場合もあります。(写真4)は、適合性のよい金インレーが入っていて何ら問題ないように思われますが、金インレーを外してみると中は(写真5)のような虫歯になっています。

     

     そんな忍者の様な虫歯ですが、私達の身体は侵されるばかりではなく、なんと素晴らしい防衛作用を持っていて、自分達の知らない間、けなげにも虫歯菌と戦ってくれているのです。それはまた後日に。  

    写真1

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    写真2

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    写真3

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    写真4

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    写真5

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